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日本語を教える - 日本語ボランティア研修で学んだこと

近年、日本に住む外国人数は増加の一途であり、住民間の言葉の壁が問題視されてきています。しかし、経済的な理由や就労で時間が取れず、語学学校に通えないという外国人も多いのが実情です。そんな中、地域ボランティアによる日本語指導の重要性が高まってきています。

ボランティアの日本語教室とは

東京23区をはじめとした外国人が多く暮らしている地域では、ボランティアが日本語を教えている場所が多数あります。先生は皆ボランティアの一般人。授業は無料で、主に地域のコミュニセンターや学校の夜間に開かれています。ボランティアによる日本語レッスンは、自治体によるサポートが多少あるものの、日本語を教えたいという有志が集まって活動している手作りの会がほとんどです。仕事しながら善意で参加していたり、リタイア後の時間を使って活動している、という人たちが運営しています。大半はプロの日本語教師ではないので日本語学校と同等の授業内容とはなりませんが、言葉の不安を抱えて異国で過ごす人たちにとっては、生活支援という面で大きな役割を担っています。

素人の私でも日本語は教えられるものなのか?日本語ボランティア支援講座に参加してみました

ボランティアによる日本語教室はいつも人不足の状態で、やってみたいという意思があれば誰もが参加できそうな状況にはありますが、実際に日本語を教えるとなると難しいイメージがあり、なかなか一歩を踏み出せません。そこで、自治体が開いた日本語ボランティア研修に参加し、実際に求められるスキル等について学んでみました。

私が参加したのは、東京都のとある地域自治体か開いた日本語ボランティア支援講座。全8回の入門講座でした。講座への参加者は約35名、大半は女性です。全体的に英語やその他外国語を話す人や海外生活を経験したことが多く見受けられました。皆さんの声によると、外国で言葉・文化の違いから辛い体験をしたことが日本にいる外国人の助けになりたいという思いにつながって講座に参加されていました。

講座の内容は、講師によるレクチャーとグル-プで課題をこなす参加型学習が中心です。レクチャーでは多文化教育の専門家、臨床心理士が、外国人が日常で直面しがちな問題を具体例を挙げながら解説していきます。始まる前は語学指導なのに臨床心理士?と感じましたが、「夢を持ってやって来た異国で様々な壁に直面している心境」を察しながら接するという側面から、心理学とは切り離せないと理解するにいたりました。

教えるという行為の前に、「異国で生活する人の気持ち」を理解する

レクチャーでは実際にあった出来事の数々が紹介されました。例えば、外国人のお母さんが子供が学校から持ち帰るプリントが読めずに連絡事項が分からない、あるいは、日本人は人と会話をする時の身体の距離が遠いので(パーソナルスペースが広いので)、ラテン系の人には避けられているように感じる場合がある、等です。その後にグループワークを行って、「自分だけ分からない、分かってもらえない」や「避けられていると感じる」を疑似体験することにより、その心理状態の理解を深めます。レクチャーで「言われてみれば・・。」と様々な気づきが芽生えた後に、グループワークで同じ立場になった状況を身に染みて理解する、という具合です。

完璧な習得のために教えるのではなく、より楽しく生活できるように言葉を教えるというのが目指すところ。

講座では日本語文法についても触れていましたが、その内容はわずかなものでした。普段よく使う形容詞や動詞をリストアップしてみる等、というものです。考えてみればたかだか数回の入門講座。日本語文法まで踏み込むはずはありませんでした。それでも、講師がアドバイスしてくださった「きらい」と「きれい」の発音に気を付ける、という具体的例が参考になりました。これまでこの二語を聞き間違えるなんて考えたことはありません。「あなた、きらいね。」と言われたら心にグサっときそうです。慣れない異国の生活では、そんなささいな勘違いの積み重ねが心の病につながるかもしれせん。難しいことを教えるよりも楽しく生活できるように手助けする - 地域の日本語教室には日本語を教える以外の役割の方が重要だと思うものがありました。

まとめ:日本語ボランティア支援講座で分かった事

講座を通じて理解した、日本語ボランティアに求められるスキルは以下です。

●地域のボランティア日本語教室は、外国人居住者の孤立しないよう「居場所」を提供するのが大きな役割。話を聞いてあげようとすることが大切。指導スキルというよりも寄り添う気持ちがあるか否かが、日本語ボランティアの向き不向きに関わる

●ちゃんとした日本語を教えるには、それなりの文法知識は必要。教え方の本を入手して基本的な文法を理解して教えるべき。

●日本語教室の授業を見学させてもらい、自分の教えられるレベルにあった教室を選ぶ。
日本語能力試験を受ける外国人向けや、日常会話を理解して地域に溶け込みたい外国人向け等、授業のタイプが教室ごとに異なるので、先ずは授業風景を見学させてもらう。

●日常生活に関わる日本語を教えるようにする。
プリントの読めないお母さんには内容を理解する手助けをする等、日々の困りごとを理解してサポート的な指導をするのが理想。

●文化の違いを理解しつつも、近所の友達同士になった感覚で互いに勉強する姿勢があれば長続きする

日本語を教えるなんて難しそう、と思っていましたが、プロの日本語教師のような高いスキルはボランティアには求められていない模様です。大切なのは寄り添う気持ち。ちょっと興味があれば参加できるきがしてきました。

日本語教室を見学しに行った際、日本語を勉強しにきていた台湾人女性から聞いた話です。七夕の日に雨が降ると、織姫と彦星は会うことができないと日本では言われていますが、台湾では二人はあえて嬉しくて流した涙が雨になるのだそうです。こんな話も聞けると、教える側にとっても楽しい勉強になりそうです。

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